『田園の詩』NO.120 「中国筆の現状」(2000.10.31)


 月日の経つのは早いもので、近くの郵便局から年賀ハガキの予約の通知がもう届きました。
この頃から、筆の需要も多くなります。特に年賀状用の小筆は、筆を求めに来られた方が1〜2
本は必ず買って行かれます。 

 その時、「小筆は当り外れがあるから…」と、同じものを手にしながらも真剣に選ぶのです。
その度に、私は、「そんなことはありません。私の作った同銘柄の筆はどれも全く同じもので
すヨ」と答えて詳しく説明をさせてもらっています。

 例えば、小筆を一度に100本作る場合、100本分の全部を完全に混ぜて均一にして、そこ
から1本分を取り出して丸めて筆にします。

 ちょうど、お酒を造る時、出来上ったお酒を大きなタンクから一升ビンにつめますが、タンク
の中身が均一なら一升ビンのお酒も1本1本全く同じはずです。筆も同時に作ったものは全て
同品質です。それが基本で、本来は当たり外れがないものです。


         
       細筆の≪和光≫の在庫がなくなったので、最近300本程作り、補充しました。
       まだ、ほとんどは天日で乾かしたままで「尾締め」をしていません。一部、軸に入れて
       完成させました。ここにある筆は、軸の模様の違いはあるものの、どれも全く同じです。
                   (10.4.20)


 それなら、何故多くの人が筆には当たり外れがあると思うのでしょうか。いや、実際にはある
のです。特に中国の筆にはその傾向が顕著です。今年、上海の筆工場を見学して、前から感じ
ていたことを確信しました。

 なにせ中国は工場も大きいが、一度に作る本数も多いのです。例えば、限られた期日までに
1万本作るとします。その場合、A班、B班、C班…と別れて、それぞれが1〜2千本ずつ完成
させ、全部合わせて1万本の筆が出来上ります。同じ原料・寸法・筆名でも各班ごとの品質には
かなりの差があります。

 その筆が日本にやって来て店頭に10本並んだとします。そうしたら同じ銘柄の筆でも10本
全部が書き味が違うという可能性もある訳です。当り外れを云々する起因がここにあります。

 中国の筆は、質より量になっているように感じています。値段が安いのは良いことですが、
質が悪いと書けません。

 私は中国筆の現状を残念に思います。筆を発明し、製筆法を教えてくれた大先輩に、また私達
のライバルになってほしいのです。             (住職・筆工)

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